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東京地方裁判所 昭和55年(特わ)190号 判決 1980年7月23日

本籍

東京都世田谷区祖師谷三丁目四五九番地四四

住居

同都同区祖師谷三丁目四一番五号

歯科医師

野路誠英

昭和一八年一〇月四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺西輝泰出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二、〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都新宿区西新宿一丁目一一番三号新宿Kビル六階において、「新宿Kビル歯科」の名称で歯科医業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、自由診療収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五一年分の実際総所得金額が三、一五三万三、六六四円(別紙一修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五二年三月一五日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄淀橋税務署において、同税務署長に対し、同五一年分の総所得金額が一、〇五九万二、六七三円でこれに対する所得税額が八五万〇、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五五年押第九一三号の1)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一、一四〇万四、三〇〇円(別紙四税額計算書参照)と右申告税額との差額一、〇五五万四、一〇〇円を免れ、

第二  昭和五二年分の実際総所得金額が五、二〇九万九、二九二円(別紙二修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五三年三月一五日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、同五二年分の総所得金額が一、九七三万一、五四九円でこれに対する所得税額が三八九万七、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二、三一二万七、六〇〇円(別紙四税額計算書参照)と右申告税額との差額一、九二二万九、八〇〇円を免れ

第三  昭和五三年分の実際総所得金額が五、一九四万七、一〇九円(別紙三修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五四年三月一五日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、同五三年分の総所得金額が一、六八一万二、三九八円でこれに対する所得税額が二一八万一、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二、二五七万二、二〇〇円(別紙四税額計算書参照)と右申告税額との差額二、〇三九万〇、七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書三通

一、被告人作成の申述書

一、尾澤正義の検察官に対する供述調書

一、収税官吏作成の収入金額、収入除外(未収入金)、架空仕入、租税公課、保険料、修繕費、減価償却費、燃料費、架空広告宣伝費、簿外給料、支払利息、新聞図書費、被服費、架空雑費、貸倒引当金、青色専従者給与、事業専従者給与、利子所得及び一時所得に関する各調査書各一通

一、検察事務官作成の雑所得に関する捜査報告書

一、淀橋税務署長作成の証明書

一、押収してある所得税確定申告書三袋(昭和五五年押第九一三号の1ないし3)及び所得税青色申告決算書三袋(同号の4ないし6)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役と罰金とを併科し、かつ各罪につき情状により同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二、〇〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、歯科医の被告人が、その経営する歯科医業に関し、自由診療収入の一部を除外し、架空の仕入や経費を計上するなどしたうえ、三年間で合計約五、〇〇〇万円の所得税を免れたというもので、犯行は計画的であり、ほ脱率も約八八パーセントとかなり高いものである。また、脱税の主たる動機として被告人が供述するところは、優秀な医師等の人材を確保するに必要な裏資金の蓄積にあったというのであるが、たとえそれが事実であるとしても、こうした目的の実現が脱税を伴わなくても可能であることは被告人も自認しているところであって、これに照らしても、右の動機が格別斟酌すべきものとは思われず、被告人の脱税に対する罪悪感が薄いものであったことは否定の余地がなく、一般に歯科医業が脱税の温床とみられていることにかんがみても、その犯情は決して軽いものとはいえない。しかしながら、被告人は、今回の脱税発覚後考えを改め、新たに迎えた公認会計士のもとに正確な収支の記帳及び納税を行う体制を整えるとともに、本件に関する本税、延滞税・重加算税等につき、分納許可を得た一部を除いてその大半を既に納付していることなどの有利な事情も認められ、その他本件に現われた全ての事情を考慮して、主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)

別紙一

修正損益計算書

野路誠英

自 昭和51年1月1日

至 昭和51年12月31日

<省略>

別紙二

修正損益計算書

野路誠英

自 昭和52年1月1日

至 昭和52年12月31日

<省略>

<省略>

別紙三

修正損益計算書

野路誠英

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

<省略>

<省略>

別紙四 税額計算書

野路誠英

<省略>

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